昨年はエリザベス女王の在位60年を祝うバッキンガム宮殿前での記念コンサートやロンドン五輪の開会式で、いずれも主役級として駆り出されたマッカートニー。ロンドン市内で読売新聞など内外のメディアのインタビューに応じ、年齢を感じさせない生き生きしたジェスチャーや鼻歌を交えつつ新作の背景を語った。
「アーリー・デイズ」は「若い頃」の意味。アコースティックギターの弾き語りを基調に、ビートルズ時代の思い出を歌いあげた。
「ある日、曲を書いていたらリバプールにいるジョン(レノン)のことが頭に浮かんだんだ。ジョンと一緒に、レコード屋で自分たちの写真を手に入れ、古いロックを聴き、壁のポスターを眺めた。楽しかったすべての瞬間を思い出した。もう手に入らないからこそ記憶は美しい」と思い入れを語る。
「伝説」独り歩き 反感と誇り
ビートルズは伝説化して世界中の人々に語り継がれる。だが、「君たちはそれを見たのか? どこかで読みかじっただけじゃないのか? 私はリバプールにいて、その街を歩いていたんだ」と主張する。伝説が独り歩きすることへの反感と誇りとが相半ばするのかもしれない。
曲中で鍵となるフレーズは「何度、痛みを笑いに変えなければならなかったことか」という歌詞。「人生にはそういうことが頻繁にあった。皆、問題を笑いに変えて生きている」と英国流ユーモアを交えて解説するが、その一方で、「今は新しい女性と一緒にいて、私の人生では幸福な時期」とも明かした。
人生や時間、愛する人への感謝をテーマとする「アプリシエイト」、周囲への不信や反感から生まれる現状から脱皮したいという願望を歌った「ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア」など、年輪を経たセレブならではの曲も交えている。
11月には、ソロとして4度目となる来日公演に臨む予定だ。「現在のツアー公演メニューは気に入っている。ファンにはビートルズのナンバーを求める気持ちなど一定の期待感もある」。他方で「日本公演には新作を3~4曲交えたい」とも。「新作は演奏していて、とても気持ちが良いから」と意欲を高めていた。(ロンドン 林路郎)
2013年10月18日(金) by 樋渡啓祐氏(武雄市長)
“バック・トゥ・ザ・ビートルズ”なアルバムだと宣言しておきながら、起用されたプロデューサー陣を見ればすぐわかるとおり、極めてコンテンポラリーな仕上がりになっているこのアルバム。
しかし本誌でも書いたとおり、このアルバムの本質にあるのはポールのエヴァーグリーンなソングライティング。
なので、ハードなロック・ソングの”セイヴ・アス”、シンガロング・ソングの”クイーニー・アイ”、トラッドなフォークの”アーリー・デイズ”、ダーク・バラードの”ホザンナ”、打ち込みとサンプリングを駆使した”ルッキング・アット・ハー”など、とにかくヴァラエティに満ち溢れた作品だが、どの曲もメロディ自体はポール節が迸っていて、だから聴いていてすごく心地いい。
朝霧JAMに行くまで、車の中でずっとこれをぶっ放していたんだけど、ホントに聴き応えのある1作です。
古希を迎えた加藤茶が大変なことになっているらしい。ブランド好きの若妻を喜ばせるためにパチンコ店での営業に励み、異常猛暑下でバテバテになってたという。そんな話を聞いていたせいか、71歳のポール・マッカートニーが6年ぶり通算16作目となる新作「NEW」をリリース、さらに11年ぶりの来日ツアーが決まったとの知らせに「老骨に鞭を打っているのではないか」と心配になってしまった。
もちろん早合点だった。前妻の元モデルとの泥沼離婚で散在はしたが、2年前に迎えた新伴侶は資産家の娘。贅沢な生活を送るためにポールに過酷な労働を強いるはずはないとのことだ。ポール自身が米音楽誌のインタビューに「バック・トゥ・ザ・ビートルズ・アルバム」と語るなどリップサービスが多かったのも気にかかっていた。
安堵したところで新アルバムを鑑賞。アップテンポの「セイヴ・アス」が飛び込んでくる。ダンスホールなどでお爺ちゃんが小刻みなリズムで躍る様子は滑稽ですらあるが、ポールは断然格好いい。思えばリアルタイムでポールの新曲を初めて聴いたのは30年近く前の「ソー・バッド」だった。いい親父が少年のような裏声で歌うバラードに驚愕したものだ。年齢を超越した“化け物性”こそがポールの真骨頂であることを新作で再認識した。
アルバムは「愛こそすべて」「ペニーレイン」などビートルズ中期のサウンドを彷彿させる先行シングルの「NEW」を頂点にビートルズサウンドが展開する前半、2013年の新しい音楽を取り入れた後半とに分かれる。今回、4人のプロデューサーと組んだが、ビートルズを手掛けたジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンが往年から一番距離を置いた印象を受けるのが実に興味深い。
アルバム「NEW」(税込み2600円)は14日発売。来日公演は11月2日に大阪、15日に福岡、18、19、21日に東京の予定。詳しくは「日本公演公式サイト」で。
(c)iZa http://www.iza.ne.jp/kiji/entertainments/news/131014/ent13101417330002-n2.html
▲(C)2013MaryMcCartney
70年の初ソロアルバム『マッカートニー』から、ウイングスを含む現在までのポール・マッカートニーの活動の中で、まず聴くべき作品はどれとどれか。そう問われれば、本当は「全部」と答えたいところで、しかも時系列で聴いていただければ、ロックンロール史上最高の天才の一人が生んだ豊かな音楽的世界遺産をたっぷり楽しめるのだが。そんな時間もお金もないし、という方のために、駆け足でポール・マッカートニーの40年以上に及ぶ活動の中の見どころ聴きどころを紹介したいと思う。とはいえポールの全作品は現在アーカイヴス化が進行中で、旧カタログが一旦市場から消えているので、特に70~80年代の作品は手に入りにくいものも多数存在する。逆に言えば、聴ける作品が少ない今こそ、ポール・マッカートニー入門編に適した時期なのかもしれない。何事も、目覚めた時が適齢期なのだ。
まず70年代では、『ラム』『バンド・オン・ザ・ラン』の2作が手に入りやすい上、内容的も最高級の逸品であるのは間違いないところ。『ラム』はおそらくポールの全作品中最も「1曲ごとのバラエティが異常に豊か」なアルバムで、アイディアが多彩すぎてサウンド的に荒っぽい部分もあるが、ロックンロール、カントリー、ファンクやソウル、イギリスの伝統音楽のルーツなど、ポールの最大の特長である「何でもミクスチャーしてしまう」特性が良く出た傑作。そして『バンド・オン・ザ・ラン』は、ビートルズの面影を強く残すタイトル曲を筆頭に、緊張感あふれるバンドサウンド、心踊るメロディ、しっかりと練りこまれたアレンジが一体となった名曲がズラリと並んだウイングス最大のヒット作。今もライヴで演奏する曲が多数含まれているという意味でも、これを聴かねば始まらない代表作だ。そのほか、『ラム』に匹敵する超バラエティ娯楽作『ヴィーナス・アンド・マーズ』や、ウイングス後期のバンドの充実ぶりを示す『バック・トゥ・ジ・エッグ』など、ウイングスには佳作が多い。アーカイヴス化が進んだあかつきには、ぜひすべて手に入れていただきたいと思う。
ウイングスと共に過ごした70年代が終わると、ポールは再びソロへと回帰。80年代の代表作は『タッグ・オブ・ウォー』(スティーヴィー・ワンダーとのデュエット「エボニー・アンド・アイボリー」収録)が筆頭で、ビートルズを支えたジョージ・マーティンの緊張度の高いプロデュースのおかげもあり、1曲ごとのクオリティと充実度がハンパじゃなく高い。
ここで少々脱線すると、ポールはその天才ゆえの気まぐれか、時折気を抜いたようなラフな作品を出す癖があり、70年代の『ワイルド・ライフ』、80年代の『マッカートニーII』などがそれに当たる(それはそれで楽しめるのだが)。それゆえ「ご意見番」としてのプロデューサーの存在が大事なのだが、ジョージ・マーティンほどそれに適した人はいなかった。このコンビは次作『パイプス・オブ・ピース』でも引き継がれ、それからさらに30年が過ぎた今、最新作『NEW』にジョージの息子、ジャイルズ・マーティンがプロデューサーで参加していることを思うと、大河ドラマ級の長い物語に胸が熱くなる思いがする。
80年代の終わりには『フラワーズ・イン・ザ・ダート』という良質な作品もあったが、『タッグ・オブ・ウォー』と共にこちらも現在手に入りにくいため、先を急ごう。90年代の代表作は、何といっても『フレイミング・パイ』。この時期はちょうどビートルズの『アンソロジー』シリーズの作業を終えた頃で、そちらにも参加していたジェフ・リン(ELO)をプロデューサーに迎えた、シンプルなロックンロールと愛らしいポップスを収めた心ときめくアルバムだ。アルバムタイトルもビートルズ時代のエピソードに基づくもので、そう考えるとソロになってからのポールの傑作はすべて「ビートルズに回帰したもの」という言い方をしたくなるが、実際そうなのだろう。ジョン、ジョージ、リンゴはビートルズから離れることで自分の世界を作ったが、ビートルズが自分そのものだったポールは、その世界から離れることはできなかった。『フレイミング・パイ』も入手困難だが、ノスタルジーいっぱいのややレイドバック気味のロックサウンドと、ポール独特のジェントルで美しいメロディが詰まった名作だ。
と、ここまで来れば「偉大なるロック・レジェンド」として悠々自適、古いファンが喜ぶようなノスタルジックなサウンドを繰り返して、アルバムはのんびり5年に1枚ぐらい出して…と、なりそうなものだが、天才ポール・マッカートニーはそんな安易な道は選ばない。2000年代に突入し、60歳を超えてなおあくまでコンテンポラリーなロックにこだわり、未知なる冒険へと乗り出してゆくのだから、驚異的なアーティスト・パワーと言うほかはない。
2005年に発表した『裏庭の混沌と創造』は、レディオヘッドを手掛けたナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに起用し、すべての楽器をポール一人で演奏してコンピューターでエディットする、きわめて21世紀的な制作方法にトライ。楽曲そのものはポールの王道的ものが多いが、DTM的な質感のあるクールでエッジの立った音が独特で、そこはかとなく漂うサイケデリックなムードもいとおかし、やはり「ビートルズ的な何か」を感じ取ることができる逸品。そういえばジャケット写真のポールは1962年の姿だそうで、やっぱりそういうことなのか。その2年後、生々しいバンドの質感にちょっと逆戻りした『追憶の彼方に』をリリース(それはそれで楽しめるのだが)。さらにスタンダード曲のカヴァー『キス・オン・ザ・ボトム』で一息ついたあと、ついに完成したのが最新作『NEW』というわけだ。ようやくここまでたどり着いた。
結論から言うと、これは『裏庭の混沌と創造』のコンテンポラリーなロックへの挑戦をさらに大胆に推し進め、その上でバック・トゥ・ザ・ビートルズ的なずっと変わらぬ要素もしっかりと感じ取れる、驚くべき作品だ。まず1曲目の『セイヴ・アス』。こんなにヘヴィでダークでパワフルなロックナンバーを冒頭に据えたのは、過去のソロ作では一度もなかった。その後に続く曲も、リズムは非常にヘヴィでタイトなものが多く、しかも生のリズムと打ち込みのそれが分かちがたく結び合わされている。軽やかなアコースティック・ギターが鳴り響く「オン・マイ・ウェイ・トゥ・ワーク」に突如として刺々しいエレクトリリック・ギターが飛び込んできたり、警報のような電子音や緊張感の高い打ち込みのリズムが響いたり。どことなく「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のサイケデリック感を思い出す「クイーニー・アイ」にもエレクトロニックな加工音がふんだんに使われ、リード曲「NEW」ののどかで明るいシャッフルのリズムも、硬質な音作りゆえまったくノスタルジックには聴こえない。
その他、ストレートなロックンロール、英国的なトラッド・フォークソング、アコースティック・ギターが奏でるシンプルなポップ・チューン、単純なリズムマシンのビートに乗せたミニマルなダンス・ナンバーなど、様々な曲調が並んでいるが、生楽器とエレクトロニクスの融合がどの曲も非常に刺激的。ポールの歌はさすがに70代だな…というところもあるし、珠玉のメロディがふんだんに聴けるポップなアルバムか?というと、そういうものとも少し違う。だが全編を貫く緊張感の高さ、実験的なものへの飽くなき挑戦、今までにない景色を見たいというポールの執念のようなものが音の隅々から立ち上る、これはやはり「ビートルズに回帰した」一連のソロの傑作に連なる作品だと言っていい。
そもそもビートルズが体現してきた「60′sスピリット」というものがあったとすれば、それは飽くなき挑戦と実験、冒険だったはずだ。ポールの体の中には今もそのスピリットが根付いていて、71歳になってもこんなにとんでもなく刺激的な意欲作を作ってしまう。音楽に好き嫌いはあるだろう。だがこの『NEW』に溢れるみずみずしいスピリットを否定することは、誰にもできないはずだ。ポール・マッカートニーはまた一つ、偉大なる音楽的世界遺産の中に新たな1ページを書き加えた。
文●宮本英夫
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